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東京高等裁判所 昭和44年(ネ)1672号 判決

控訴人

堀内美代子

右訴訟代理人

青木定行

青木達典

被控訴人

有限会社魚七破産管財人

長谷川昇

主文

控訴人の第一次的請求および予備的請求を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、当審において原審における訴を交換的に変更し、第一次的に、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、金一、五〇九、〇一〇円およびこれに対する昭和四四年一一月二六日より完済に至るまで年五分の金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」、予備的に、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、金一、三〇〇、〇〇〇円およびうち金一、〇〇〇、〇〇〇円については昭和四一年一一月四日より、うち金三〇〇、〇〇〇円については昭和四二年一月五日より各完済に至るまで年六分の金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「控訴人の控訴を棄却し、当審における予備的請求を棄却する。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上および法律上の主張、証拠の提出援用認否は、左に付加するほかは、原判決の事実欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴代理人において、本件譲渡担保の目的物は、第一審判決記載の一階店舗内にある冷凍陳列棚一ケース、電気冷蔵庫一台、金銭登録機一台、冷凍ケースその他什器備品一切、商品一切であるが、これらの目的物は特定の場所に存在し特定明確にされているのであるから、譲渡担保の目的物としての特定明確性において欠けるところはなく、本件譲渡担保は有効である。右目的物につき、被控訴人が、什器備品は金一、〇一四、四〇〇円、商品は金四九四、六一〇円で売却処分したので、第一次的に、目的物件に代わるものとして代金額一、五〇九、〇一〇円等の支払を求める。そして、第二次的に、かりに右譲渡担保がいわゆる清算型譲渡担保であるとしても、控訴人は右譲渡担保の目的物の売却金一、五〇九、〇一〇円から貸金債権の範囲内で被控訴人に対し支払を求めることができるものであるから、控訴人は被控訴人に対し右貸金一、三〇〇、〇〇〇円等の支払を求めると述べ、被控訴代理人において、控訴人が譲渡担保の目的物と称する什器、備品、商品を処分したことは認める。しかし、本件譲渡担保の目的物はその特定性明確性を欠くから、譲渡担保契約は無効である。かりに譲渡担保契約が有効であるとしても、破産法七二条一号により被控訴人は右譲渡担保の行為を否認することができるのであるから、控訴人は一般債権者として破産債権届出の方法により権利行使をすべきであると述べ、証拠〈略〉。

理由

控訴人は当審において訴の交換的変更をなし、被控訴人は右訴の変更に同意しているので、以下当審における控訴人の新請求について判断を加える。

当裁判所は、控訴人の当審における第一次請求は理由がないと判断するが、その理由は、次に付加するほかは、原判決の理由欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

原判決四枚目裏二行目の「三号証」の次に、「第二審における控訴人本人尋問の結果により成立の認められる甲第五号証の一ないし三」を加え、五枚目裏五行目の末尾に「被控訴人は、上記譲渡担保契約は目的物件につき特定性を欠くから無効である旨主張するが、右担保物件中什器備品については、破産会社の後記井士ケ谷支店店舗所在のすべての什器備品を指すものとしてその特定性に欠けるところはなく、また商品類は、具体的には常時変動するけれども、そのように変動する状態においてその全てが一個の集合物として担保の目的となり、最終的に債務不履行による清算ないしは確定的所有権の帰属時における商品がその具体的内容として確定される関係にあるから、その意味で特定性を失うものではなく、被控訴人の右主張は理由がない。」を加え、同九行目の「証人平井克已」同一〇行目の「同鈴木郁男」の次にそれぞれ「(第一、二審)」を加え、同一〇行目「原告本人尋問の結果」の前に「第一、二審における証人和田忠一、山土井晴夫の各証言」を加え、同六枚目裏二行目「約金六、〇〇〇、〇〇〇円で」を「本件譲渡担保の目的物件を含む約金六、〇〇〇、〇〇〇円程度の什器、備品および商品類の他にみるべきものは殆どなく、全体として」と改め、同七行目「他の一般債権者」の前に「同会社資産の重要部分を構成する井戸ケ谷支店所在の動産類の殆ど全部を破産会社に対する全債権の一〇分の一に満たない控訴人の債権の担保に供する結果、」を加え、同七枚目の「右認定」の前に「この認定に反する第一、二審における鈴木郁男の各証言、控訴人本人尋問の各結果は措信できず、他には」を加える。

そうすれば、控訴人は被控訴人に対し原判決記載の本件動産額の引渡を求めることができないものであるから、これが引渡を求めることのできることを前提とする控訴人の第一次請求はその他の点について判断するまでもなく理由がないものといわなければならない。

次に、控訴人の予備的請求について判断する。

被控訴人の予備的請求は、本件譲渡担保がいわゆる清算的譲渡担保契約と解される場合を慮り、その場合における担保物件の引渡に代わる金員の給付請求額を被担保債権額の範囲に限定したものと思われるが、そうだとすれば、その請求の基礎をなす本件譲渡担保契約が有効に否認せられたこと前記のとおりである以上、右予備的請求もまた理由がないことは明らかである。

そうすれば、控訴人の当審における第一次請求および予備的請求は、いずれも理由がないから、これを棄却すべく、訴訟費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(中村治朗 鰍沢健三 鈴木重信)

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